表現力の浅田真央、演技力のキム・ヨナ 
ちょっとGPFのプロトコル話を交えつつ回顧その他を書こうとしてたら、熱い増田に先を越された件。
しっかし、一杯ぶくま付いたなぁ。
◆「技術の浅田、表現力のキムヨナ」というのをもうやめないか@増田
そら確かに、技術力で上回る浅田に、表現力のあるキム、そして二人は同じくらいの背格好で、同い年!という構図はいかにも漫画チックで面白げだが、その面白げな演出のために事実を曲げるのは言語道断だろう。
浅田選手は実は(といってもフィギュアファンには常識だが)表現力も凄い。PCS(厳密には違うがかなりおおざっぱにいえば芸術点的なもの)の今季最高得点は浅田である。
そう、浅田はPCSにおいても、高く評価される存在ではある。
一応解説しておくと、ある種の芸術点的な部分を占める「演技構成点(以下PCS)」は、下記の5つの要素である。
・Skating Skill(SS)→スケーティングの脚使いの巧さ、多彩さ
・Transition/Linking(TR)→要素(技)以外での滑りの工夫・評価
・Performance/Execution(PE)→演技としての濃密さ、正確性
・Choreography(CH)→振り付けの美しさ、独創性、プログラムの充実度
・Interpretation(IN)→音楽に対する表現力、シンクロ
で、そのPCSに関しての2006-07シーズン以降、要するに、キムがシニアデビューして以降の国際大会におけるフリースケートでの成績を浅田とキムについて出してみたのが、下の表。因みに表中の「TES」は技術点のことで、単純に12〜13の要素(技)に対して点を与えて、その総和を取ったものである。このTESの拾い方について「難度で稼ぐ」浅田と「完成度で稼ぐ」キムで大きなスタイルの違いがあるが、それは今回は横に置いといて。

平均を取ると、浅田が全体としては非常に僅かではあるが上回っているのが見て取れる。
むしろ、平均としてはキムが上回るのはTESな訳だが、これは浅田が難要素を入れている分転倒など自爆リスクが高いからであり、最高値では浅田がこれも上回っている。その意味で、テロ朝が事前に「安定感のキム」としていたのは大体正しい。まぁキムもミスは必ず1つ2つくらい入るのだけれど、これは現在のフィギュアスケートにおいてはある程度仕方がないので、割愛しても良いファクターではある。特に女子においては、フリーにおける「全く減点のない滑り」は数年に一度レベルであるから(何気に最後にそれをやったのは、不安定感に定評のあるw安藤美姫である)。
……はサテオキ、要素別にこれを見ると、比較的差が出るのは、SS、PE、CHの各要素で、SSとCHは浅田が上回り、PEはキムが上回るという図式。まぁSSは半ば技術点に近いもので、「ジャッジ持ちの技術点」的な部分はあり、「芸術性」に掛るのはPEとCHであろう。これを平たく言えば
「表現力の浅田、演技力のキム」
というのが正しいように思う。実際に顔芸やスピード感など、「パフォーマンス」というかケレン味を主張するのがキムの演技の持ち味である一方、音楽へのシンクロをベースに、淡々と滑りつつスケートで情感を表現するのが浅田の持ち味である。とある外国人ジャッジのサイトではキムを「joy to watch=見ていて愉しい」スケーターであり、浅田を「skating with heart=心をこめて滑る」スケーターと評しているのを見たことがある。この辺りがオフアイスで淡々としているキムとオフアイスでケレン味のある浅田というキャラクターと相反しているのがこの娘達の面白さであり、テレビメディアなどで誤解されやすい部分なのだろう。
一方で、例のテレビとかでは、今回の成績で浅田のPCSが低かったことをもってして「キムの方が上」としているのではと思うが、正直今回に関してはジャッジがある程度意図的に浅田の評価を下げたきらいがある。上の図をもう一度見て欲しいが、昨シーズン以降浅田のPCSが60を切ったのは今回以外で3回であるが、それぞれPCSが伸びなかったのは
・昨年のスケートカナダは調整段階で、トリプルアクセルを外すなど演技構成をかなり差っぴいた状態
・昨年のGPFは、最下位スタートで1人目の滑走だったため、ジャッジが採点を上げづらかった
・今年のTEB(フランス大会)は、大自爆で得点が下がった
と明確な理由がある。
一方で、今回のGPFはそういった理由は無く、2位でスタートして転倒一つはあったものの、ほぼ完璧な滑走を見せていたのである。転倒は減点材料だが、実際には技術点や転倒減点があるので、プログラムの流れを変えるほどでない限りはPCSにはさほど本来は反映されるべきではない。今回よりもっとド派手な転倒をかました今年の世界選手権で60.58取れてたわけで。
また、今回のPCSの低さは、SSと他要素の点数の乖離にも現れているだろう。上の表で「SS*4−Oth.」と示してあるもので、SSの点数を4倍したものと、TR〜INまでの各要素の和を引いたものである。一般的に、SSの点数と他のPCS要素の点数の乖離は、比較的TESによく連動する。06-07の浅田のスコアはそれを示しているだろう。07-08は世界選手権がやや例外的だが、これは演技冒頭の3A直前に大転倒があってTESが7.5削られてるからで、そこからの超絶かつ劇的なリカバリーを思えば、まぁ、という所であり、かなりレアなケースではあった。
さて、それを見た上で、このGPFの得点における1.75という大きな乖離はどうだろう。
この乖離度合いは一昨年のスケートアメリカ、GPFのフリー演技に匹敵する。で、TESを見れば判るとおり、この両者は大ズッコケだったのである。少なくとも、この基準が今回の浅田に適用されたのは、ジャッジとしては相当厳しかったと言わざるを得ない。ある意味、キムにホームアドヴァンテージを与えるために、アレンジされた面はあったのではないか。
個人的には、採点種目である程度のホームアドヴァンテージがあるのは致し方ないと思うし、正直この大会で少々下げられてもそれほど浅田にキズとはならなかったとも思う(昨年のGPFがそうであったように)。実際、今回僅差が予測されたキムの採点を待つ浅田はかなり勝ち負けについてどうでも良さそうな淡々とした表情で、今年のワールドで最終滑走の中野が猛パフォを見せた後のスコア待ちにおける動揺っぷりとは対照的であった。
ただ、今大会における採点では上記のような「特殊な事情」があった、みたいな部分はある程度ファンの側としては銘記すべきであって、今回のスコアで浅田とキムの鼎の軽重を問うような論評に対しては、軽率と言わざるを得ないかな、と。むしろ今大会は浅田の実力というか、キムに対する優位をかなり見せ付けた部類に入る大会ではあろうな、と。
そもそも「コケなければ」みたいな話もあるが、コケなければ流石に難度高い方が勝つのである。
今季の演技について、浅田とキムが届け出ているフリー12要素(因みにショートはルール上実質的に単独の3Aが無理なので、両者の要素にほとんど差はつかない)の単純な合計を見ると、以下の通りな訳で。
[LFS] Mao ASADA | [LFS] Yu-Na KIM
======================================================
01 3A+2T 9.50 | 01 3F+3T 9.50
02 3A 8.20 | 02 3Lo 5.00
03 3F+2Lo+2Lo 8.50 | 03 3Lz+2T+2Lo 8.80
04 FSSp4 3.00 | 04 FSSp4 3.00
05 SpSq4 3.40 | 05 2A+3T 8.25X
06 3S 4.95X | 06 3Lz 6.60X
07 3F+3Lo 11.55X | 07 SpSq4 3.40
08 3Lz 6.60X | 08 3S 4.95X
09 2A 3.85X | 09 FCoSp4 3.20
10 FCoSp4 3.20 | 10 SlSt3 3.30
11 SlSt3 3.30 | 11 2A 3.85X
12 CCoSp4 3.50 | 12 CCoSp4 3.50
======================================================
69.55 | 63.35
Generated by: FSSim Ver1.50
中身の説明は増田に譲るとして、合計だけ見て貰うと、要するにジャンプやらスピン・ステップという「技」の点数を重ねれば、浅田が6.2ポイント優位、というお話。実際の演技では浅田の8番目のルッツがトゥループになり、キムの2番目のループがダブルアクセルになるケースが多く、この場合0.7ポイント差は短縮するのだが。
確かに5〜6ポイント程度の優位ってのは、個々の要素の完成度に対してのジャッジによる加点である程度以上埋められること(この点でキムは文句なしに女子最高レベル)、またジャンプミスによる減点量が1回につき5〜10ポイントにも達しうることを考慮すれば、さほど大きなものではなく、今後もお互いのミスの量によって勝ったり負けたりの展開が続くのは間違いないだろう。しかし、少なくとも現状、技術・演技構成の両面で僅かでも「アドヴァンテージを持ってる」のは浅田であるし、タイトルを考えても現時点の「世界ナンバーワン」が女子シングルに1人いるとすれば、それは間違いなく浅田であるというのが、正しい認識ではある。
そこで敢えてキムを持ち上げるのは確かに不可解で、変な利権とかを疑う向きもあるかもだが、実態としては、それは詰まるところ「スポーツを物語る」ことに関しての本朝のテレビメディアの貧困さなのであろう。
要するに、奴らは「チャンピオンをチャンピオンとして扱えない」のではないか。
増田へのブコメでも似た意見が出ていたが、スポーツを物語るプロセスとして、「世界に挑戦する誰それ」的なテンプレートに収めないと気がすまない、みたいな部分を今回の報道については感じたものである。その上で、相手になるのがキムくらいしかいないからキムを頑張って持ち上げる、みたいな部分はあるように思われる。幸か不幸か韓国メディアの側でも「日本人を倒すアスリート」という最強テンプレにクリーンヒットするキムに対して、豪快にスターシステム発動させてるし( 「今年最も韓国を輝かせた選手」はキム・ヨナ、という報道があったが、あんたら今年北京であんだけ金メダル取ったの全スルーかい、とツッコみたくなったぞw)。その上で、チャンピオンを持つ幸福と、チャンピオンであるゆえの苦しみと、それを守る難しさ、或いは第一人者の矜恃、みたいな辺りにスポットライトを入れるような物語性については、今ひとつピンと来ないフシがあるんではないかな、と見えてしまう。
昨年の東京ワールドの後に、かみぽこセンセイと浅田真央とスターシステムについて論を交わしたことがあって、その時に自分は「浅田は第一人者としてある程度スター扱いを引き受けることは致し方ない」という話をしたのだけれど(で、センセイにスターシステム認定された訳だがw)、「浅田が第一人者である」って部分を差っぴくような報じ方をされたくない、みたいな思いは当時からあった。で、その後ここまで浅田は順調に成長して世界チャンピオンのタイトルを得たのだけれど、未だにそこが差っぴかれ続けてるってのは悲しいよなぁ、というのは切々と思うんだが、全くこの国のメディアは何処までスターの扱いを間違え続けるんだ。

コメント一覧
>全くこの国のメディアは何処までスターの扱いを間違え続けるんだ。
つーか、単純に「浅田真央のようなチャンピオンを扱った経験値がゼロ」ってことではないんでしょうか。
自分の記憶する限り、スターダムにのし上がった時点でほぼ同時に世界チャンピオン級であって、以後数年にわたってその地位を守り続ける日本人選手というのは、いないのではないかなあと。
強いて上げるなら具志堅用高くらいではないかと。
んで、ブコメにディープインパクトの名前があったのですが、彼でさえ凱旋門賞に出た時は「正統なステップを踏んで挑戦者の座に至った」的アングルはあったわけで、そこは違いかなあと。
宮嶋さま>
> 自分の記憶する限り、スターダムにのし上がった時点でほぼ同時に世界チャンピオン級であって、以後数年にわたってその地位を守り続ける日本人選手というのは、いないのではないかなあと。
この条件自体が日本人に限らず相当難しいというか、チームスポーツだとどうしてもベテランの先達に責任を分担して貰うような形になりがちなので、「チャンピオン級の存在感」をルーキーが示すのは難しいですし。
で、日本人でこの条件っつーと、って悩んだけど、いたよ、谷(嫁)。
ただ、不幸なことに、オリンピックに勝つのに4年どころか8年かかったことで、他では明らかに第一人者だったのに、「挑戦のギミック」を背負わされ続けた部分はあって、アレはアレで気の毒だったなぁと。
新年からライターとしては失職(挨拶)。
>ふぃぐあ
まあそれ以前の問題として、「真央ちゃん」っていうのいい加減やめてくれやマスコミの皆様、と。佐瀬さんご存命だったら「浅田選手と呼びたまえ!」とカミナリ落ちるで(苦笑)。
あと、柔道とかもそうなんですけど、結局は「五輪王者じゃないじゃん」というのも案外大きいとは思うんですよね。男子なんかは申し訳ないけど「プルシェンコの番手決定戦」にしか見えないし(正式引退すればまた話は別なんでしょうが)、女子もじゃあ浅田選手を「第一人者」と言っちゃっていいものなのかどうかっていう扱いづらさみたいなものはあると思います。
正直、古くから見てる人間からすると「GPFごときで騒ぎすぎだっての」っていう気持ちもあるんですけどね。とくに五輪シーズンは「ここからどうするか」が問題だったりするわけですし。
わむ>
ごめん、未だに「みどりちゃん」とか言ってるよ、俺(挨拶。
この競技自体、結構「勝ち逃げ」のケースが多いので、余りチャンピオンが能力を維持して……みたいなケースは少ないかもですねぇ。クワンとかはある意味五輪で負けたことで、そういうチャンピオンシーを発揮したっぽくもあるのが皮肉というか。
男子はそういう意味で、今イキのいい選手がそれこそプルにかすりもしなかった、みたいな辺りは結構「番手争い」感を出してしまってる所かも。女子の場合、調整試合だったとは言え、浅田が荒塚屋公園を五輪前に倒してることで、それなりに引き継ぎが出来てるかな、とは思われますが。
GPSの位置づけに関しては同意。
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得点計算、得点シミュレーションのソフト完成
有芝まはる さま
ご無沙汰しております。 さて、非常に亀ですが、2008-2009 ルール対応の得点計算、得点シミュレーションのソフトが完成しました。いや、不備の不安ありありです。
また、ご意見など戴ければ幸いです。
http://rosch.blog98.fc2.com/blog-category-0.html
せめてスケ連が真央選手を守ってくれればいいんですけど、期待できないから悲しい。
ロッシュさま>
どもです。男子スレでチェックしてましたので、既に利用させて頂いております。
あきさま>
どうしても、選手自身のガードとなると、今くらいスターシステム的な部分が強まると、中小企業的な競技団体では限界があって、マネジメントの専属化みたいになるのかなぁと思われますね。そういう意味ではIMGはまずまず優秀と思うし、浅田も頑張れてるとは思うのですが、ルールに関するポリティクスはどうも。
#ただ、個人的にはDG判定の修正は来季は期待できるかと思われます。
#コーチ辺りの意見でもかなり上がってるポイントのようなので。