中央競馬史に残る感動のレース:99年有馬記念、*グラスワンダー 
ひとまず、シリーズ完了、かな。随分gdgdしてしまいましたが。
てな訳で、過去記事へのリンクもどぞー。
・メジロドーベル@98エリ女
・セイウンスカイ@98菊花賞
・ダンツシアトル@95宝塚
・ノースフライト@94安田
・メジロマックイーン@92春天
◆NetKeiba:レース結果
*グラスワンダーは、まごうことなき天才としてターフに出現した。
彼が朝日杯で大レコードを打ち立てたとき、恐らくこの馬は現在の日本の競走馬のスタンダードにミスマッチした存在なのではとすら、一部から思われていたのである。しかし、その思い込みはふたつの面から突き崩される。一つは、明け4歳春での彼の故障。そしてもう一つは、日本競馬史上でも屈指とも言える優れたライバルたちの台頭である。そうした中で、彼のアイデンティティはたびたび危機に陥る。明け4歳の秋、歴史的とも言えるサイレンススズカ、*エルコンドルパサーの両騎との対決に置いて後塵を拝し、続くハンデ戦のアルゼンチン共和国杯でも惨敗したとき。明け5歳の春、京王杯スプリングCで子供扱いしたエアジハードに、本番の安田記念できっちり返り討ちを喰らったとき。決して安定しているとは言い難い彼のコンディションに、ファンは不安を募らせることが多かった。だがその度に、*グラスワンダーはまるで徳俵でうっちゃるかのように、シーズン終わりのグランプリで鮮やかな復活を果たして、その存在感を見せつけていた。有芝は98年グランプリの中山で、グラスの復活に抱き合って歓喜の涙を流していたカップルの姿が忘れられない。この馬は、ともすると全てを失いかねないところまで自身と自身のファンを追い詰めてしまう馬であり、しかしながらそんな場面で決して屈することなく己の天才を証明する馬であった。
しかし、彼の周りのライバルは、あの朝日杯で*グラスワンダーのみが突き破ったかと思われた日本競馬のスタンダードを、非情なまでに引き上げていた。中でも*エルコンドルパサーとスペシャルウィークは、海外の覇道と国内の王道の上で、グレード制史上それまでの馬が経験し得なかったような事績を積み上げていたのである。そして凱旋門2着を土産にエルコンドルが府中の引退式でターフに別れを告げる一方で、同日にスペシャルウィークは凱旋門賞馬を尻目に秋天からJCの連勝を果たし、前馬未踏の秋の王道3連勝に向けて歩を進めた。たかがこの3年も前には、凱旋門賞2着馬が日本から出ることはおろか、秋天→JC→有馬の連勝を果たせるかも知れない馬が出ることすら、想像の埒外であった。翻るに、この時のグラスが何を達成していただろう。彼は、まごうことなき天才と認められていても、チャンピオンとして証明したものは何もなかった。もし、有馬でスペシャルが勝利しグラスが敗れていれば。この馬は或いは、「ただのGI3勝馬」で終わってしまってたかも知れない。前年の有馬やこの年の宝塚以上の正念場が、またしても彼に訪れたのである。
このレースにおける、*グラスワンダーとスペシャルウィークのハナ差の攻防に、合理的な回顧を行うことは難しい。あれから8年以上が経過してなお、それは説明するに難しいものであるように思われる。あのレースが両馬の実力を正当に出し合った結果なのかすらも、正直論じることに聊かの愚かしさを感じる部分はある。同日の900万を1秒以上下回るタイムとか、そういう理屈に関係なく、その上で、僅差で食い下がったテイエムオペラオーやツルマルツヨシに勝利の必然性が全くなかったことだけは明らかに思われる。あの日の中山2500に1年後のテイエムオペラオーを連れてくれば、或いは両馬の攻防を半馬身くらい前できっちり睥睨していたのかも知れないが、そのオペラオーとこの日のオペラオーが同じ馬と思うべきでもないだろう。凱旋門の Montjeu と JC の*モンジューが残念ながら違う馬であったように。
強いて言えば、未だに自分はこの日の中山に神を見ているかも知れない、と思う。
おおかた馬体を合わせきって、或いは騎手の一からすれば差していてもおかしくないスペシャルが遂にグラスの前に鼻面を伸ばしきれなかったのは、何かがこの馬にそういう役割を与えたがらなかったからだと思うし、グラスが遂に自信の絶対能力ではなく、馬体を併せて「引き出される」力で最後スペシャルを抑えきったのは、何かがこの馬、この時代のスタンダードたるべき名馬に対して、相応のチャンピオンシーを与えたがったのではないか。
しかし、ある種の等価交換として、この時降臨した神は、*グラスワンダーからこの先進む道を奪ってしまったように思われる。翌年の日経賞に現れたこの馬は、もはや競走馬の体型を失ってしまっていた。この後の彼の競走成績を彼のものとすべきではないだろう。一方で、スペシャルウィークが数センチの差で埋め得られなかったピースを埋めるために、テイエムオペラオーはターフに君臨し、グラスを屠り、*メイショウドトウとナリタトップロードを引き連れて年間全勝の覇業を成し遂げたのである。
かくして、本朝の競馬は21世紀のポストモダンに流れ込んだのだ。
前世紀における困難、或いは*グラスワンダーとスペシャルウィークが競走馬としての全てを削ぎ込んでこの日の中山に争ったものは、後世の競走馬の多くにとって、ある程度以上にたやすく得られるものとなってしまった感がある。勿論、そんな現代の競馬においても感動は必ずや見いだされるものであり、それが競馬の底力であると、有芝は確信する。しかし、このレースが切り開いたポストモダンが再び切り開かれるまで、このレースの神のごとき感動が再現されるまで、我々はどれだけの時を待つことになるのだろうか?

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